純粋に うつくしい 実話の はずなのに、すっきりしない読後感

父さんの手紙はぜんぶおぼえた

父さんの手紙はぜんぶおぼえた

・知性をとりまく、知的野蛮がえがかれている。知的ではあっても無邪気な少女たちをとりまく、おぞましい時代。

・このうえもない家族愛(短期間の養子的関係やコンパニオンアニマルも)が、このうえもなく うつくしく えがかれることで、一層かなしみが うきぼりになっている。

・でも、イスラエルにわたり看護兵となった主人公は、たとえばだれの看病をしたのだろう。主人公の少女時代は無垢だったし、生活者としての彼女に、うしろゆびをさされるような要素はかけらもないかもしれないけど、職業生活は無慈悲な国際政治とナショナリズムのなかから、ぬけだせない。
 なにもかかれていないけど、成人後の主人公と、ききとりした著者は無垢とはいえそうにない(イスラエルへの、ブレない愛国心は、インタビュー記事[p.260]にはっきりと)。

・こういった、本来うつくしかったひとびとを、かぎりなくグロテスクな国民へと(当人たちは、自衛のためと信じている)おいこんだのは、ナチスをうんだキリスト教社会だ。ナチスなきあとの欧米社会に問題・不安がなかったのなら、イスラエルにわたる必要もなかったはずだから。