琉神マブヤー私見2(ふたたび、あえて おおまじめに)

琉神マブヤー私見(あえて、おおまじめに)」
http://d.hatena.ne.jp/MASIKO/20120801/1343821819
の つづき。


 テレビ版・映画版の 共通点として、もうひとつあげるべきは、ウチナーンチュと動植物双方が、「神の子」であり、本来対立する存在ではない、という世界観があげられる。
 マジムンの頭目である ハブデービル*が再三くりかえすセリフは、生態系(自然=神の秩序)を破壊するウチナーンチュから沖縄島ほかの本来の時空をうばいかえすために復活し攻撃するにいたった、という論理である。

  * 「ハブデービル」とは、日本語訳すれば「ハブです」という

 前回もかいたことだが、「マジムンたちの攻撃目的は 生態系の復旧であり、近代以前の ウチナーンチュたちの くらしぶりを おもいだせば、攻撃をうけることはなかった」。前回かいたように、「映画版では、近代以前でも、マジムンたちが ひとびとをくるしめ、そのたび、マブヤーが マジムン退治に登場するシーンがでてくる。マジムンの いかりが、生態系破壊をひきおこす人間の行動であるなら」こういった構図はありえないだろうが。
 その意味で、マブヤーや、シーサーの化身「ケン」(テレビ版)と、キジムナーの化身「キジムン」(映画版)は、ヒトと野生動物の中間的存在であり、ウチナーンチュが自然破壊をもたらす開発をふくめた消費生活へ反省をせまる「使徒」である。というか、なぜか ウチナーヤマトゥグチを駆使するハブデービルが、侵略者のようにみえて、実は、通訳をかねた使節団団長である。しかも、マブヤーらとともに、覚醒しながら、たがいの論理の対立点を、弁証法的に止揚していく。

 そして、テレビ版での「マブイ・ストーン」、映画版「マブイ・スター」が象徴する「価値」は、たぶん、動植物の一部(神の子)であるウチナーンチュが、本来継承してきたはずの「徳(規範)」を意味しているとかんがえられる。前述したように、ハブデービルが ウチナーヤマトゥグチを駆使し、さらに「おばぁ」(両作品で唯一共通の、かおだしキャスト)が 「まぶいぐみ(魂込み)」などで ウチナーグチを 多用するのは、沖縄島周辺の継承文化を表現しているのだろう。しかし、ハブデービルの なかまである マングーチュ(メスの マングースの化身らしい)が、標準語で しゃべりつづけるのは、インドからの外来種だからだろうか? 授業で7種類の「まぶい(徳)」を生徒に説明する玉城先生(映画版)が基本的に標準語であること(イントネーションなどはともかく)は、シャレにならない象徴性をおびている。
 これら 言語面での つかいわけは、基本的に県民児童を対象にしたテレビ版と、全国展開をこころみた映画版に共通している以上、観客(市場)の想定とは、別問題だろう。テレビ版のDVDについている標準語テロップを最大限に利用するなら、双方とも ウチナーグチでとおすこともできただろうが、規定しているのは、県内市場と出演者の言語能力の実態なのだろう。琉球大学の米須興文名誉教授をはじめとする、沖縄にとっての(英語による)アイルランド文学研究の意義をみきわめようといううごき、在日コリアンによる日本語文学などと、問題の核心は、通底しているのだろう。


 こネタをひとつあげるなら、ハブ駆除をねらったといわれる、ジャワマングースは、「ハブは夜行性であるのに対して、本種は昼行性であり、両者は時間的に棲み分けて」いたことから、当然、「天敵」などにはなりえないのであって、近代人の 科学主義的「あさぢえ」をわらいのめす含意が、「ハブデービル」と「マングーチュ」の距離感にあらわれているのは、あきらかだ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%AF%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%BC%E3%82%B9#.E4.BA.BA.E9.96.93.E3.81.A8.E3.81.AE.E9.96.A2.E4.BF.82




【テレビ版に関する本格的な論考】
「「琉神マブヤー」における正義と悪の矛盾、そして愛」
http://vivalamusica.hippy.jp/mabuyerronbunn.html

「……。沖縄県は1972年の沖縄の施政権がアメリカから日本に返還されてから、観光を主力の産業としてリゾートホテルや都市開発を進めてきた。しかし、その結果、リゾート開発の際に流れた土砂や廃油で海は汚れ、珊瑚礁は著しく減少し、沖縄の最北端で未開発の自然が残されているやんばる地区も開発により、森の生態系が脅かされつつある。
そして、ハブ、オニヒトデマングースとこれらマジムンたちのモチーフになっている生物達を調べてみると、彼らも人間、いやウチナーンチュたちの都合で悪しきもの扱いされた生き物であるとわかる。
例えばハブに噛まれると細胞組織を破壊する猛毒により、筋肉を失う、または死に至る危険を孕むことで忌み嫌われているが、ハブは動物食で特にネズミを好んで食し、ネズミに悩まされる農家に重宝され、『完本 毒蛇』(小林照幸薯 文春文庫)では、ハブについて、「毒さえなければ、ハブほど役に立つ動物はいない」という台詞があるほどだ。
また、マングースは人間の都合で沖縄に放たれた生物だ。ハブ退治のために1910年に沖縄、奄美大島などに放たれたマングースは生息数を増加させたものの、ハブは食べずに、絶滅危惧種であるヤンバルクイナノグチゲラ、天然記念物のアマミノクロウサギを食べ、沖縄や奄美大島の生態系を狂わせた。そして2002年1月、環境省は重い腰を上げ、希少野生生物の保護のためにマングースの駆除を始めている。
オニヒトデの大量発生とそれによるサンゴの死滅のきっかけは観光産業の弊害からである。サンゴを捕食して疎まれるオニヒトデだがそのオニヒトデをホラガイが捕食することで生態系が崩れることはなかった。しかし、土産物の貝細工用として、または観賞生物用としてホラガイを乱獲したために生態系が崩れ、天敵がいなくなったことでオニヒトデは大量発生しているのである。
マジムンたちもまた、ウチナーンチュ、いや、人間たちの被害者なのかもしれない。
「ノンマルトの使者」の劇中、事故で他界した海を愛する少年の亡霊、シンイチというキャラクターが登場する。彼はノンマルトの民に共感し、人間が海底開発することに抗議し、またそれを食い止めようとウルトラ警備隊のアンヌ隊員に抗議した。
オニヒトデービル=ニライはシンイチ同様に「ノンマルト」、「トーク星人」である自然の生き物側のスポークスマンなのだ。彼の言葉とマブヤーへの攻撃攻撃は、観光という利益追従の果てに自然というものを壊したウチナーンチュへの怒りと問いかけである。そして、お前らの都合で翻弄された俺達を悪者扱いするなという生物達の叫びでもあるのだ……」

ウィキペディア「ノンマルト」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%83%88