歴史社会学(史的社会学ではない、歴史意識の社会学)のための おぼえがき7

3.歴史教科書の社会学

 過去の蓄積が、いずれも議論上あらたな展開へとすすめていないので、学校教科書の歴史記述へと議論をうつしてみたい。
 すでに、「歴史社会学(史的社会学ではない、歴史意識の社会学)のための おぼえがき5」において、「「歴史社会学者」たちの自己意識」といった問題提起をしてきた。もちろん、歴史記述や歴史意識・記憶継承などについての一定の社会学的蓄積があるが、「歴史社会学」と称するよりは「史的社会学」と称すべき分野が混入しているという問題意識がずっと継続しているからである。
 実際、本シリーズの表題を「歴史社会学(史的社会学ではない、歴史意識の社会学)……」とはじめたことは、いまだに関係者のあいだに定着していない現状への問題提起である。

 しかし、関係者への問題提起を学会大会・研究会などのばで、いまさら積極的にくりかえす気にもなれない。「歴史社会学」という名称での、実質「史的社会学」的な蓄積は、かなりの質/量におよぶからだ。
 この際、アカデミズムに見解の修正をうったえるようなムダな努力はあきらめ、「史的社会学ではない、歴史意識の社会学」を淡々と蓄積して読者層をふやすことが、運動としては最短距離であろう。
 さて、今回は、畏友、岡本智周氏の近刊『共生社会とナショナルヒストリー 新刊
歴史教科書の視点から』(勁草書房)の目次と、岡本氏の主要著作を紹介することにした。

【内容説明】
多くの人にとって、歴史を学ぶ入り口となる教科書。その記述には独特の枠組みがあり、歴史認識をめぐる社会的葛藤の原因にもなる。1950年代以来の教科書問題の論点と教科書内容の変遷をたどることで、国家・国民を単位とした歴史の語り口の特徴と限界を解き明かす。共生の概念を資源とした新たな教育のあり方を理解するために。

【目次】
はじめに

第一章 二〇〇八─〇九年の学習指導要領改訂がもたらしたもの
 1 二〇一〇年代の教科書の刷新
 2 沖縄戦」の描かれ方
 3 「琉球史」の描かれ方
 4 「倭国」と「日本」の扱い
 5 「世界史」の新たな特徴
 6 ナショナルヒストリーという語り口

第二章 歴史教科書問題の論点の推移
 1 「台湾出兵琉球領有」の記述の変遷
 2 一九五〇年代の歴史教科書問題
 3 世界社会への接続
 4 国民社会の相対化と再定位をめぐるせめぎあい

第三章 リスクとしての歴史教科書問題
 1 「沖縄戦」記述の発端
 2 二〇〇七年の社会的議論の帰結
 3 問題の所在
 4 リスクとしての歴史教科書問題
 5 アメリカにおける歴史教科書問題
 6 「国民」カテゴリの存在
 7 ナショナルな枠組みを支える社会制度

第四章 共生社会におけるナショナルヒストリーの位置
 1 学校教育への「共に生きる力」の登場
 2 教育資源としての共生概念
 3 社会的カテゴリの更新としての共生
 4 共生社会意識とナショナリズムの関係

第五章 歴史の社会的な成り立ちを理解するための資源
 1 歴史叙述の枠組みの対象化
 2 沖縄史に関する教育的知識の展開

おわりに
参考文献
索引


【かきかけ】

岡本氏主要著書
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国民史の変貌―日米歴史教科書とグローバル時代のナショナリズム

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共生と希望の教育学

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歴史教科書にみるアメリカ―共生社会への道程 (早稲田社会学ブックレット―現代社会学のトピックス 1)

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叙述のスタイルと歴史教育―教授法と教科書の国際比較

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学校教育と国民の形成 (講座現代学校教育の高度化)

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【関連文献】

イデオロギーとしての「日本」―「国語」「日本史」の知識社会学

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【本シリーズ目次】
●歴史社会学(史的社会学ではない、歴史意識の社会学)のための おぼえがき1
http://d.hatena.ne.jp/MASIKO/20120928/1348802644

0.はじめに
 0−1.この「おぼえがき」の位置・意味

1.問題意識と方法論
 1−1.問題意識
 1−2.方法論
  1−2−1.歴史データに対する基本姿勢
   1−2−1−1.歴史データにおける文献至上主義への距離
  1−2−2.援用する社会学的分析の機軸
   1−2−2−1.防衛機制をはじめとした動機の推定
   1−2−2−2.属性による「プロファイリング」と、少数例へのめくばり
   1−2−2−3.科学社会学周辺の蓄積の援用
  1−2−3.前提とする社会学的周辺の分析手法
   1−2−3−1.比較対照
   1−2−3−2.時間的遡行(文脈解釈への警戒感と単純な因果関係理解)
   1−2−3−3.国民国家や国際組織、国際法などの自明性にもたれかからな
          い
●歴史社会学(史的社会学ではない、歴史意識の社会学)のための おぼえがき5
http://d.hatena.ne.jp/MASIKO/20130311/1362927633
 1−3.「歴史社会学者」たちの自己意識
  1−3ー1.福間良明「歴史社会学の方法論」
  1−3ー2.角崎 洋平「歴史社会学の応用可能性――社会科学にとっての歴史
       研究の方法論について」(「歴史社会学の方法論――福間良明氏の
       仕事を/から学ぶ」指定質問)
  1−3ー3.石原 俊「インターディシプリンな歴史叙述」

●歴史社会学(史的社会学ではない、歴史意識の社会学)のための おぼえがき2
http://d.hatena.ne.jp/MASIKO/20121008/1349656522
2.「強制連行はなかった」論の再生産構造
 2−1.プロパガンダとしての「強制連行はなかった」論の心理的基盤

●歴史社会学(史的社会学ではない、歴史意識の社会学)のための おぼえがき3
http://d.hatena.ne.jp/MASIKO/20121010/1349830205
 2−2.「なかった」論批判の骨子と実証史家の責任

●歴史社会学(史的社会学ではない、歴史意識の社会学)のための おぼえがき4
http://d.hatena.ne.jp/MASIKO/20121017/1350462763
 2−3.「なかった」論批判の射程と含意

●歴史社会学(史的社会学ではない、歴史意識の社会学)のための おぼえがき6
http://d.hatena.ne.jp/MASIKO/20130602/1370139669
2−4.「(当時は)しかたがなかった」論の心理機構