社会学A(中京大学2016年度)質問回答補遺9

◇「第15回プリントp.3下から3行目「21世紀にはいると飲食店や各種店舗でのフロアスタッフ・レジうちなどで外国人店員が一般化した。一挙に多国籍化した」とあるが、すき家松屋などの牛丼屋やファミマなどコンビニには外国人スタッフが多いが、自分が働いている、「赤から」など甲羅グループには、ほぼ外国人がいない。これは企業側で何か取り決めがあってのことなのか? それとも単なる偶然なのか? 牛丼屋とかの方が仕事的に簡単?」:■残念ながら外食チェーンについて無知なので、責任ある回答ができかねます。ただ一般論としていえることは、企業など組織ごとに、外国人をはじめ、正職員/アルバイトのリクルートには、おおきな差異があるという現実。永住権をもつ定住外国人をふくめて外国籍かどうか、日本語力がどの程度か、容姿がどうみえるか、など、差別的といっていい水準で多種多様な実態があります。
甲羅グループが、どういった採用方針をもっているか、外食チェーン自体を全然しらべたことがありませんので、具体的なことは、わかりません。ただ、グループのなかに「カルビ一丁(焼肉)」「韓菜家(焼肉・韓国料理)」をふくんでいる以上、在日コリアンをふくめて外国籍スタッフが皆無ということはないのではないかと推測します。むしろ、アルバイト志願者の選抜時に、コリア系を排除しようといった採用方針をとっているとしたら、むしろ異様です(あまりに時代錯誤なレイシズム)。特別永住者は、ごくわずかな例外をのぞいて、準日本国籍者といっていい水準で市民権をえているわけで、国籍以外、親族ネットワークが三世代レベルで「隣人」であるといって過言ではありません。祖父母とか親族の配偶者に、こういった広義の在日コリアン(ルーツという意味で朝鮮半島がいくらかでもある層)がひとりぐらいいる人口は、いまや例外的少数とはいえなくなっています。
■それはともかく、牛丼チェーンなど外食産業、特に、ふたりぐらいで1店舗をまわすファストフード店は、マクドナルド化で解説したように、徹底的にマニュアル化されたマックジョブを軸にした体制です。ファストフードチェーンとは基本的に同業他社との薄利多売競争であり、しばしば大衆の欲望にそって「価格破壊」へと暴走しがちな組織ですから、マニュアル依存の新人研修で人事コストを圧縮するほかないのです。■同時に、日本の外食産業は、(可視化されない)厨房はともかく、ホールでは最低限の漢字リテラシーが必要とされる、ガラパゴス空間です。非漢字圏にルーツをもつ層が日本の飲食店にほとんどいないのは、時給のひくさ(労働強度にくらべたとき)という問題だけでなく、恣意的で複雑な日本語漢字に対応しきれないのが普通だからです(非漢字圏出身で漢字がすきな人物の大半は「日本文化マニア」)。マニュアルを外国人むけに整備した企業もふえているのかもしれませんが、日本でマックジョブ用にリクルートされる人材とは、同時に、作業マニュアルで自明視される漢字カナまじり表記を速読・熟読できる能力をもっていることが前提なのです。■このようにかんがえると、甲羅グループの店舗は、非漢字圏出身者がそもそも適応できない職場空間の可能性がたかいかと。そして、ネームプレートをつける店舗でないかぎり、漢字圏出身者の留学生は可視化されません。厨房ではたらく調理スタッフは、マニュアル不要の料理人の可能性があります。かくして、すくなくとも、ホールスタッフには、一目で「外国人」という人物が皆無になりがちと。
現代日本が自明視する接客サービスの水準自体が、ガラパゴス文化かもしれないのですが、それはともかく、作業マニュアルを低コストで多言語化するか、すくなくとも、ローマ字表記のマニュアルを積極的に導入しないかぎり、日本食系の外食産業は、いつまでも、日本人/準日本人、といった層以外から採用できないままで推移しそうです。これは、無自覚な非関税障壁であり、意識されないレイシズム/排外主義といえます。厨房内や作業現場ばかりに「外国人労働者」がめだつとすれば、それは、日本人が自明視する日本語文化が構造的に労働現場を規定しているからといえそうです。