社会学A(中京大学2016年度)質問回答補遺10
◇「「マクドナルド化」は効率的なものであり良い物であると分かったが、「アメリカ化」のようなもので、アメリカが日本諸国で展開したものが広がっていたものであり、多国籍企業のものであるが、日本などはその形式を受け入れて「マクドナルド化」が成立すると思うが、マクドナルド化・グローバル化したものを扱えない人以外で、これを拒むものはいないのか。」〔原文ママ〕:■補遺7同様、出席率がたかい履修者からの質問として非常にショックです。テキスト/授業の不備の端的な結果ですし、ほかにも同様な誤解が伏在していそうですから、これも補足説明することにします。
■まず、「「マクドナルド化」は効率的なものであり良い物である」とは断言したことはありません。■むしろ、テキストやプリントの基調は、効率性を追求した合理化のあまり、実質的な非合理性がめだつからこそ、合理化の負の側面についてのジョージ・リッツァのモデル化は社会学者にうけいれられた、という点を強調するものでした。何度強調してもしたりないとおもいますが、「グローバル化」と同様、功罪両面があり、質的対照はともかくとして、功罪を量的に比較してよしあしをうんぬんすることは不毛なのです。■ただし、消費社会に突入してひさしい経済先進地域の大衆が「価格破壊」などをのぞむ傾向がやまないかぎり、マクドナルド化の進行・定着は不可避であり、すくなくとも富裕層以外が拒絶することは困難だという現実も、強調しました。学校であれ、医療であれ、「安価なサービス」の安定供給ということをよしとする風潮、ないし財政危機など予算削減圧力がやまないうちは、マクドナルド化が進行することは、とめようがないという構造です。■第15回プリントpp.6-8を熟読のうえ、テキストのpp.84-6, pp.95-6をよみかえしてください。
■また、「マクドナルド化」が「アメリカ化」ではないことも、再三強調したはずです。ハンバーガー・チェーンの代表的企業マクドナルド社のビジネスモデルが日本の外食産業の営業形態を劇的にかえたことは事実ですし、戦後日本の行動経済成長期からバブル経済・崩壊期にいたるまでのプロセスが、多分に北米文化のコピーであり(たとえば、トヨタ自動車のトヨティズムは、アメリカの自動車ビッグ3の主軸だったフォード社が確立したフォーディズムのコピー改良版)、「アメリカ化」といって過言でないことも事実です。しかし、マクドナルド社やKFCなどのファストフード・チェーンの導入によって、吉野家とかスシローなどの成功が全部説明できるのかといったら、絶対にノンです。セブン・イレブンや日本マクドナルド、PIZZALAなどの商法も、アメリカの二番煎じとは到底いえない。マニュアル化であるとか、コンピューターによる合理的な経営とか、アメリカの多国籍企業が発達させた現代的ビジネスなしに、これら日本のサービス産業の急伸が説明できないのはもちろんですが、日本的なサービス産業の発達の相当部分は、コピーというよりも、日本型合理化の産物なのです。たとえば、経済先進地域の労働者で、時給800〜900程度で、あれだけの接客サービス水準を維持できている地域は皆無のはずです。■アメリカ発の多国籍企業のおおくがそうであったように、日本での展開において、アメリカの本社の方針が、そのまま実施されることは、そもそもないのです。IBMにしろ、マクドナルドにしろ、セブンイレブンにしろ、コカ・コーラにせよ、日本列島という巨大市場でのマーケティングは、社長レベルまで基本的に日本人スタッフに「まるなげ」して、経営を土着化した方が利潤があがるということを、アメリカの首脳部も、すぐに理解したのです。
■そもそも、日本で展開したファストフード・ビジネスがアメリカのコピーにすぎなかったなら、うどん/そば/きしめんなどの、たちぐいチェーンや串カツや立ち飲みなど消失しているはずですし、牛丼/回転ずし/各種日本食デリバリーも衰微していたはずです。モスバーガーにおける「ライスバーガー」といった発案もうまれようがなかったでしょうし、そもそも日本食の高級でもないチェーン店が北米に展開して、接客・ビジネス用に人気といった事態(大戸屋etc.)やラーメン店の人気も説明できるはずがないでしょう。
■世界では人気がない野球がまだまだ人気をたもつ。ハリウッド映画、英会話学校や各種検定、そして「ハーフタレント」なども人気。J-popsを席捲している英文タイトル。マイクロソフト社やアップル社によるIT機器のモデルチェンジに翻弄されつづけるなど、アメリカのシステムを「世界標準」であるかのように「デファクトスタンダード」として追従する。アメリカ政府のかおいろをうかがいつづける日本の政官エリートの惨状とか、米軍基地や空港をはじめとしてアメリカの傀儡政権としてしか行動しえない日本国憲法に優越する安保体制(「シン・ゴジラ」)……など、日本の植民地状況はあきらかです。しかし、ビジネスや文化がアメリカ化したとは、到底いえません。
■第15回プリントpp.5-6を熟読のうえ、テキストのp.110-2などをよみかえしてください。
■したがって、「日本などはその形式を受け入れて「マクドナルド化」が成立すると思うが、マクドナルド化・グローバル化したものを扱えない人以外で、これを拒むものはいないのか」という といをたてることは、基本的にナンセンスです。■まず、うえにみたように、外食産業における無数の領域で、非アメリカ的空間が健在であり、接客サービス業においてもアメリカのコピーなどしていない空間だらけであること。アメリカ流のシステムをこばむ/こばまないというより、そもそも、国際化とは無縁な領域が無数に維持されているからです。食材・人材を大量に外部調達しているという点で、国際化/グローバル化はすすんでいるけれども、日本列島上の巨大市場に対応しているのは、アメリカ式のビジネスモデルの機械的適用とはほどとおい土着化だったり、ここ百年/数十年で近代日本がくみあげた日本文化というほかないシステムがささえていると。■日本のマンガが、アメコミのコピーでないとか、アニメがディズニーやピクサーのコピーでない(ヒントはたくさんえていても)ことなどは、いまさらふれるまでもないことでしょう。
■むしろ、日本のマクドナルド化は、学校や病院、福祉施設など、非営利組織で急速に展開しています。そして、それが「アメリカ化」とは基本的に無縁であることも、いくらでも実例をあげることができます。たとえば、極度にマクドナルド化した学習塾に依存した、これまたマクドナルド化の極というべき公教育(宿題ほか、保護者に依存したセルフサービス)だとか、無数に。■テキストのp.85を再読してください。
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