社会学A(中京大学2016年度)質問回答補遺5

◇「(『社会学のまなざし』p.112最終行〜)「流行・定着の速度、質/量には、おおきな格差があり、むしろ格差は拡大していく一方だろう」とあるが、何年後か情報が広がりすぎて情報受信不充分な地域が完全に世界から置き去りにされることは有り得るか?」:■質問の主旨・趣旨がわかりかねますが、ミニレポート3の課題2で出題した「輸送速度・通信速度があがるほど、情報格差がひろがる理由」をまず再確認してください。第15回プリントで解答例としてしめしたのは、つぎのような解析でした。
「■輸送速度・通信速度があがっても、情報は世界全域に同時にひろがらないだけなく、360度全方向に一様にも伝播しない。伝播速度にはムラがつきまとい、最先端部分は自文化を一層変化させてしまい、「最先端」自体がかわってしまう。一方、それ以外の後続部分は、最先端部分においつこうとするがつねに、おくれつづけていく。」

■講義でのべたように、第12回プリントp.3でかいたとおり、「グローバル化はあたかもアメリカ化としての均質化として進行するようにみえたが、少々広域へのひろがりがあるとはいえ、英語/野球/アメリカンフットボールヤードポンド法など「ローカルルール」が「普遍」として世界をおおいつくすことはなかったし、デファクトスタンダード(事実上の標準)として機能している範囲も地球全域ではない。牛肉を食文化から排除している空間にハンバーガーがそのまま定着することはないように、そして、衣食住という生活文化が各地の歴史性を払拭することはない」わけです。■ウシを神とあがめる文化圏は牛肉食を当然拒否する(過去のアイヌ民族のおように、ヒグマをカムイのプレゼントとして感謝するような世界観もありますが)。ブタをけがらわしいとみなす文化圏は豚肉食を拒否する。「ビッグマック」も「豚丼」も、定着しえない空間がずっとのこりつづけるでしょう。世界中がサッカーファンだらけにならないのとおなじように。……文化は、360度全方向に一様にも伝播することはありえないし、各地がかかえる地理的・歴史的条件が定着の質/量をかえてしまいます。■技術革新をふくめた「流行」も、同様で、iPhoneが世界をおおうこともないまま、スマートフォン以外の携帯端末が誕生し、また世界にひろがっていくはずです。そして、それも、“iPhone”同様、世界をおおうことはない。……つまり、世界中は、いつまでたっても、情報分布にムラが発生しつづけます。半永久的に。アフリカ大陸にも、ケータイ/スマホがどんどん定着しているようですが、それらが欧米や東アジアなどでの利用のされかたと異質なままだろうことも、ほぼ確実です。■つまり、「情報受信不充分な地域」といった観点から、世界から情報上とりのこされる空間があるかどうかを、とうこと自体がナンセンスなのです。
■もちろん、アングロサクソン文化こそ国際社会の主軸だと信じてうたがわない層にとっては、ヨーロッパ大陸でさえ情報の先進地域からはずれるでしょうし、ロシアやラテンアメリカ全域が後進地域でしょう。しかし、北米や旧英連邦で国際社会を代表していいはずがないことはあきらかでしょう。すでにふれたことのくりかえしになりますが、サッカーやラグビーのファンがすくない北米は、フットボール文化において、あきらかに「ローカル」な存在なのでから。世界のアニメファンにとって、ディズニー/ピクサーは世界最先端かもしれませんが、「アメコミ」を原作とするアニメを最先端とはみなさないでしょう。英語圏のベースにしたアングロサクソン文化を世界の最先端だの「世界標準」だのとみなすのは、まちがいです。世界最大の映画大国空間(制作本数と観客動員数)である「インド映画」であるとか、「ローカル文化」とすますわけにはいかない質/量をかかえた広域文化は、いくらでもあげることがあり、それらのおおくは英語圏からはずれているのです。アニメ/ガラケー/新幹線にかぎらず、日本列島に開花した現象を単なるローカル文化の成熟=「ガラパゴス化」と過小評価しても不毛であるように、世界全体は多文化空間でありつづけています。そして、銃規制や核廃絶からとおくはなれた「暴力国家」というべき大国アメリカは、銃規制非核三原則武器輸出三原則平和憲法などを原理原則としてきた戦後日本を「先端」としたときに、あきらかな「後進国」でしかありません。そして、こういった理念からほどとおいことを、全然はずかしいと感じていない「トランプ支持者」たちなどは、「情報受信不充分な地域」の住民(「情報弱者」)というほかありません。世界中から情報収集をおこたっていないつもりのアメリカ国民は、肝心なことを一向にまなぼうとしないでいるわけです(もちろん、日本のこういった風潮/伝統をしっている、冷静なアメリカ人もたくさんいますが)。2001年のアメリカ同時多発テロを予言するかのような警告を発していたチャルマーズ・ジョンソンのように、在日米軍を批判するような知性が実在する一方、平均的アメリカ人の度しがたい「後進性(情報弱者ぶり)」こそ、問題視すべきでしょう。■こういった点からも、「情報受信不充分な地域」といった観点から世界から情報上とりのこされる空間をうんぬんすること自体がナンセンスなことがわかるでしょう。


◇「情報伝達技術が地域によって異なるということが書いてあったが、情報を入手できない地域は重要な情報をどう手に入れるのか。?」:■うえの質疑応答とかさなりますが、情報格差は基本的にちぢまらないとかんがえるべきでしょう。たとえば、日本列島内で流行の地域格差が少々へるようにみえたとしても(たとえば、外国人には、日本列島上のファッション水準が「同一」にみえたにしても)、せいぜいユニクロだとか西松屋などファストファッション量販店とか、通販などによる均質化にすぎません。たとえば銀座や新宿などのブティック・百貨店の水準のしなぞろえは、地方の百貨店にさえならびようがないのです。■も、歴史のあさい私学などが同様のパフォーマンスをつづけることは構造的に不可能なのです。「3大都市圏の私立大入学者は、▽首都圏20万4287人▽関西圏7万6677人▽中部圏2万9206人。この3大都市圏だけで計約31万人に上り、全私立大の入学者の65%、国公私立合わせた入学者のおよそ半数を占める。」といった地域格差が解消される確率は、まず絶望的に0にちかいでしょう(そういった事態がきたばあいは、日本列島上が国際社会における地位が激変しているので、比較自体がナンセンス)。さらにいえば、東京大学をはじめとする戦前の帝国大学を前身とする拠点大学間でさえも、ちいさくない格差があります(予算規模や人脈/威信)。アカデミズムでも「かちぐみ」が好循環をつづけることで格差がひろがる「マタイ効果」が指摘されてきましたが、少々の序列の変動はおこりえても、激変はおきないはず(これも、ありえるとすれば、日本の国立大学といったシステムが無効化するぐらいの、大変動がおきたばあいの結果)。
■ネット空間がどんなにひろがろうと、霞ヶ関など中央官庁だけがかかえる情報・機密は膨大にのこされることでしょう。アメリカ大統領とその側近たちだけがしりうえる機密が、30年間ほぼ世界から封印されるのと同様に、総理大臣周辺の重要情報がネット上にあがることは絶対にありえません。ウィキリークスのような暴露集団が機密をリークできる機会をえたりしないかぎりは。
■さて、「まわりみち」すすぎましたが、重要な情報をまともに入手できない空間は、無数に放置されます。自力救済で重要情報をむしりとるような気迫を維持し、実際に収集できるノウハウ/体制をくむほかないのです。「福島第一原発事故」の前後で、政府や東京電力がさまざまな情報をかくしてきたように、政官財のエリートたちは、重要情報を支配の手段と位置づけており、自分たちの権力の源泉として不可欠の資源ととらえているのですから、当然です。「重要情報」ほど、かくされるとみるべきです。

■以上は、情報格差が生じている、情報強者と情報弱者間での、せめぎあいにおける一般論です。
したがって、そもそも情報格差は拡大傾向・構造がある以上、情報を入手しづらい地域/集団は、自分たちの不利をうめるべく自衛するほかありません。基本的に、重要な情報ほど情報強者にかくされるし、情報強者の情報蓄積からはひきはなされるのが情報弱者。それを充分ふまえつつ、やけばちにならず、くさらず情報収集をおこたらずに、いきていくほかないのです。
■ついでいえば、情報強者の一部は、自分たちのエリート性を維持するための保身ではなく、情報弱者に対する啓発活動を展開する層をかかえています。人権派弁護士やNPO関係者など、情報弱者の救済、情報弱者のエンパワーメントのために尽力している個人・組織があります。■情報弱者は、そういったひとびとが、どこにいるのか、どういった支援活動・啓発活動をつづけているのか、つねにアンテナをはる必要があります。