社会学A(中京大学2016年度)質問回答補遺4
◇「p.4の「グローバル化」という現実④で「“goods”の大量高速移動をもたらした輸送革命」とあるが、このおかげで海外との輸出・輸入が盛んになったが、その一方でフェアなトレードが行われていなく貧しい生活となっている国があるが、なぜそのようなことが起こるのでしょうか。また、改善することはできるのでしょうか。」:■講義で充分に説明しきれなかった責任ですが、「フェアなトレード」ではないことが明白なケースは、さほどないのです。典型例は、ヒューマントラフィッキング(拉致や詐欺による人身売買)とか、臓器売買など、あきらかな人権侵害=違法行為とか、児童労働など貧困に起因する人権意識のひくさをベースにした低賃金労働の産物などです。■したがって、いわゆる「フェアトレード」などの概念にもとづいた輸出入だけを「公正」とみなすなら、国際的なとりひきの相当部分が「不正」となっていまいます。いいかえれば、マルクスらが指摘したように、労働者と経営者/投資家、第三世界と経済先進地域などのあいだで、売買される労働力/製品は、あくまで「合法的」に交換されて、資本主義は回転しつづけてきました。つまり、詐欺だとか強奪ではなく、表面的には「平和的」な「win-win関係」で労働力/製品が交換されつづける構造自体を、マルクスらは「搾取」とよんだのです。
■つまり、一般に「南北問題」とよばれる国際貿易の実態と経済格差は、各企業や消費者が「善意」でくりかえしている経済行為の集積でおきている現実です。「南」の「生産者」が、「北」の「消費者」とが、たがいに「合理的」な行動をくりかえして、巨大な非合理が発生しているという意味では、「合成の誤謬」の最たるもの、といえるかもしれません。そういった意味では、みなさんがフィリピン・バナナを無邪気に食すること自体が、格差を拡大させているとか、形式的に「フェアなトレード」が日々くりかえされているという点にこそ、巨大な矛盾がひそんでいるのです。「フードマイレージ」や「仮想水」などにかぎらず、われわれ経済先進地域の市民(大衆)は、発展途上国や自然から、巨大な収奪を「合法的」にくりかえしているといえます。いいかえれば、世界経済の最大の矛盾とは、「フェアなトレード」が成立しないことではなく、一見「フェアなトレード」が継続的にくりかえされている構造自体にこそあると。しかも、そこには「悪意」が不在なのです。
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