『社会学のまなざし』コメンタール(回路5)

受講生からでた質問への回答にかえて、各記述について、補足説明。
※ 表記などについての疑問については、「『社会学のまなざし』誤植一覧

■「超合理性と非合理性とは「せなかあわせ」」(p.109)
 ↑ 合理性追及もいきすぎれば、合理的とはいえない「負の副産物」をもたらすと。労働者のことをつかいすてにしないかぎり達成できない価格破壊。提供時間短縮を追求するあまり、油分を大量にすいこんだポテトしか商品化できないマクドナルド。不審者・犯罪者の行動を監視・抑止しようとして導入されたカメラが、一般市民の私生活に介入。利便性を追求したネット利用での、個人情報流出頻発。etc.


■「バベル化」(pp.109-114)
 ↑ 「バベルの塔」は旧約聖書の神話だが、古代にすでに意識化されていた多文化状況は、一極化/グローバル化が喧伝される21世紀においても、基本はかわっていない。億単位での話者人口を維持し、事実上の非英語圏といってよい、アラビア語圏、スペイン語圏をとりあげるだけで、それは充分立証されている。ウシを神聖視する信者が億単位でいれば、そこには牛肉パテを前提にしたハンバーガー文化は定着しえない。日本をはじめとして、キリスト教をはじめとした一神教が例外的少数の信者しか獲得できない地域は、世界中に点在しつづけるだろう。情報通信技術(ITC)の進展は、これらの多文化状況を消失させる力学にはなりえないだろう。人類が、現在のような化石燃料に依存した浪費システムにしがみつづけるかぎり、早晩、生態系が破局的な変容をきたすことになり、文明社会は崩壊するものとおもわれる(p.113)。そのころ、相互に孤立する、崩壊した各文明は、現在以上に文化の異質性がたかまるはずで、たとえば、世界中で英語だけがはなされる時代とか、世界中でアメリカンフットボールが愛好される時代などは、一度もやってこないであろう。

■「ガラパゴス化」(p.114)
 ↑ 「(ガラパゴスか、Galapagosization)とは日本で生まれたビジネス用語のひとつで、孤立した環境(日本市場)で「最適化」が著しく進行すると、エリア外との互換性を失い孤立して取り残されるだけでなく、外部(外国)から適応性(汎用性)と生存能力(低価格)の高い種(製品・技術)が導入されると最終的に淘汰される危険に陥るという、進化論におけるガラパゴス諸島の生態系になぞらえた警句である。ガラパゴス現象Galapagos Syndrome)とも言う。」「パーソナルコンピュータ」「携帯電話」「デジタルテレビ放送」「カーナビゲーションシステム」「非接触ICカード」「ゲームソフト」「建設業」「長距離走」(ウィキペディア「ガラパゴス化」)
北米でのSUV(Sport Utility Vehicle)人気とその崩壊ぶりを批判したイギリス経済紙の例や、やはり北米の磁気ストライプ型クレジットカードによるにもあるように、一定の市場規模(数千万人以上の成熟した消費者層など)があれば、どこでも発生しえる。

■「情報発信やヒト/モノの輸送能率の加速化がすすむほど、情報の発信速度、質/量の濃縮化がすすむほど、各「小世界」は皮肉にも分散しつづけ、たがいに孤立化をすすめていく」(p.116したから5行〜)
 ↑ pp.115-6でかいてあるとおり、情報通信技術(ICT)の進展は、情報発信・受信双方の条件や能力の格差を拡大することはあっても、ちぢまることはない。なぜなら、発信・受信双方の当事者がもちあわせる条件や能力の格差を情報通信技術(ICT)をちぢめるより、むしろひろげる宿命をかかえているからだ。